私と二人の物語
「美緒、ご飯食べて行きなよ」

「あ、うん」

戸惑いながらもそう答えた。

帰るきっかけはまだ考えていなかった。


悟が晩ご飯を作り始めて、私が

「手伝うよ」

って言ったら、

「いいよ。座ってて」

と言われた。

その表情でわかった。

確かに。

うちは好江さんが食事を用意してくれるから、まともに作ったことがない。

前にもいくつか失敗していて、悟はそれを学んでいるのだろう。

「はい…」

私はそう言って座っているしかなかった。


悟は独り暮らしが長いのか、料理は手慣れていたし、実際、美味しかった。

彼は東京出身だけど、西神芸大美術学部イラスト学科に入学してからの9年間、ここで過ごしているらしい。

最初はお祖父さんが骨董屋をやっていて、そのお祖父さんは4年前に他界、その後、誰も継がないから、そのまま引き継いでいるとのこと。

元々彼も、神戸が好きだからわざわざこっちの大学にしたらしいので、それは自然なことだったようだ。
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