私と二人の物語
「骨董のことはわかるの?」

「じいちゃんに少しは教えてもらったけど、ほとんど素人。でも、勉(べん)さんが…あ、いや、じいちゃんの友人が2つ隣の坂の下で同じく骨董屋をやっていてね、いろいろ教えてもらってるんだ」

「そっか」

「やっぱり暇みたいで、しょっちゅう来るから、そのうち会えると思うよ」

「そっか。それは楽しみ」

私の台詞に彼は少し真顔になったけど、何かに気が付いたようにあらためて笑みを零した。

もしかして、私は勉さんも知っているのかもしれない。


「食後の珈琲はいる?」

「あ、うん。淹れて」

「わかった」

彼は椅子の音がしないように立つと、コンロに珈琲用のケトルを載せて火を付けた。

そして、そのまま外の方へ視線を向けた。

私もそれにつられて視線を向けた。

そこには神戸自慢の夜景が広がっている。

自宅も高台だから見慣れてはいるけど、さすがに北野町、こっちの方が灯りが多い。

「この夜景をいつも見たくて神戸に来たんだ」

「そうなんだ」

悟を見ると、彼は幸せそうに外を見つめていた。


二人でしばらく夜景を見ていると、ケトルがカタカタと音を立てた。

悟はすぐに火を消して、珈琲を用意した。

「はい、どうぞ」

「ありがと」

私が受け取った珈琲カップは、彼のとお揃いのアンティークだった。

「これ、私のお気に入りだったでしょ?」

「あ、うん。そうだよ」

彼は想像以上に嬉しそうに言った。

「だと思った」

私も想像以上に笑った。
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