私と二人の物語
その珈琲が空になった時、私は少し部屋の中を見回した。


ここに居たんだ…


本当は、別の部屋にも居場所はあっただろう。

でも、そこには踏み込めなかった。



「じゃあ、今日のところはこれで帰るね」

「…そっか」

悟はその間をごまかすように、すぐに笑顔になった。

「うん。ゆっくり悟を思い出したいんだ」

「そうだね」

彼は頷いた。

「今度はいつ来ていい?」

私がそう言うと、彼の顔が輝いた。

「いつでも。俺が仕事してても、君は本を読んだりして居てくれたし」

「そっか。わかった。来られる時はふらっと来るね」

「うん、ふらっと」

私たちはお互いの顔を見て笑った。

そのせいで、また連絡先の交換を忘れた。

でも、そんなものに縛られない関係っていうのもいいなと思った。
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