私と二人の物語
しばらく上からは、くぐもった彼女の怒鳴り声が聞こえていたが、さらに時間が経って、それが聞こえなくなった。

そして私の前の珈琲が冷め切った頃、上でドアの開く音がして顔を上げた。

渋々納得したような表情の彼女と悟が階段を降りてきた。

彼女はソファーの手前で立ち止まって、頬を膨らませて横を向いていた。

「ほら、座れよ」

悟は彼女の両肩を軽く押さえて、私の斜め前に座らせた。

「君のこと、よく説明したから」

悟は、私の目の前に座りながら言った。

「その前に、…つくしさん?この方がどういう関係なのか私わからないんだけど…」

「あ、ごめん。そうだよね…」

悟が軽く頭をかいた。

「佐久間つくし。あなた、本当に私のこと覚えていないの?」

「…ごめんなさい」

私は戸惑いながらも頭を下げた。

「信じられない…記憶喪失って、本当にあるんだ…」

彼女も少し戸惑いを見せた。

「あ、佐久間って…」

私は悟を見た。

「そう。勉さんの孫」

「あ、やっぱり?」

「京都の美大生。時々絵を教えているんだ」

「そうなんだ」

彼女を見ると、言葉はなくまだ渋々な感じだけど軽く頭を下げた。

私も何て言ったらいいかわからなかったので、同じように頭を下げた。

悟はそれを見て、台所に彼女の飲み物を用意しに行った。
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