私と二人の物語
勉さんのお店は2つ隣の坂の下にある。

二人で坂を降りていくと、臨港堂と書かれた看板が見えた。

坂に連なる建物の中の一つで、悟のお店と同じ様な外見は、異人館街に溶け込んでいた。

悟は、私を見てにこっとすると、その真ん中にあるドアを開けた。

木製のドアはカランッと、軽やかなベルを鳴らした。

「いらっしゃいませ!」

荷物を降ろしていて、背を向けたまま元気に言ったのはつくしさんだった。

「あれ?どうしたの?」

彼女は私たちを見てきょとんとした。

「ちょっと勉さんに見てもらいたいモノがあってさ」

悟は手に持った風呂敷を軽く上げて見せた。

「あ、そうなんだ。じゃあ、お爺ちゃん呼んでくるよ」

つくしさんは、普通の表情で奥に入っていった。


しばらくして、勉さんがカウンター後ろの暖簾をヒョイっと上げて顔を出した。

「おお、いらっしゃい」

「こんにちは」

悟は手を上げただけだけど、私はそう言った。

「何か変わったモノが持ち込まれたのか?」

「ああ、これ。ちょっとよくわからなくてさ」

「どれどれ」

勉さんはその風呂敷をカウンター越しに受け取ると、横のテーブル席に座るように言った。

私と悟は、その骨董品らしいテーブルの椅子に腰掛けた。

勉さんは、カウンターの向こうの鑑定道具の載った机に座ると、風呂敷からモノを取り出した。
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