私と二人の物語
「ご馳走さまでした」

私は店の前でつくしさんと並ぶ勉さんに言った。

「いやいや、またおいで」

勉さんが微笑んだ。

「はい」

私はそう答えるとつくしさんを見た。

「…また、おいでよ」

彼女は少し横を向きながら、そう言った。

「うん、ありがとう」

そして、彼女はちらっとこっちを見て「うん」と言った。

「じゃあ、勉さん、ありがとう」

「おう、悟、またな」

「美緒、駅まで送るよ」

悟は私を見るとそう言った。

「ううん。いつものとおり一人で大丈夫」

「えー、送ってもらいなさいよ。危ないでしょ?事故にあったじゃ…」

つくしさんが、言いかけて「あ…」と、口を押さえた。

「まあ、確かに。でも、ほんと大丈夫だから」

「うん、わかった。気を付けて」

悟がその後を引き取った。

私は悟たちに手を振りながら、坂を下った。

そして、彼らが見えなくなったところで、今感じている温かさが急に怖くなった。

どんどん距離が近くなる。

近付きすぎている…

私は、この後、どうまとめるの?

そして、思い直した。


「もう、始めてしまったもの…」


私は、悟に見せられない思いを殺した表情で、駅に向かった。
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