私と二人の物語
「なんだ、表書きで勘違いしただけだったのね」

「そうですね」

悟が頷いた。

「中身は手紙だったの…」

奥様は、気を取り直して、箱の中身に目を向けた。

そして、それをそっと取ると、裏表を見て、軽くため息をついた。

そして、便箋を取り出すと、書かれた内容を確かめた。

「恋文かぁ…」

宛名は『清水さち』で、差出人は『北山慎之介』の手紙。

奥様の話では、その差出人は、その後婿養子に入ったさちさんのご主人、要するに奥様のお父さんだった。

「そっか、だから、ずっと大切にしていたのね」

奥様は、その手紙を微笑ましそうに見つめていた。

私はそれをじっと見つめていた。

「これ、読んだ?」

その視線に気が付いた奥様が言った。

「いえ、人の手紙ですから」

私は首を振った。

「読んでみる?」

「いいんですか?」

奥様は優しく頷くと、その手紙を私に差し出した。

私は軽く頭を下げると、それを受け取り読んでみた。





読み終えて、

「素敵…」

思わずそう言葉が漏れた。

「でしょ?」

少し時代掛かった文章だけど、そこには愛が溢れていた。

奥様が、少し上を向いて、何かを思い出している表情をしていた。

悟と二人でそれを見て、顔を見合わすと笑みを浮かべた。

古の恋愛に、私たちも何かをもらった気がしていた。

奥様は「高価なモノかと思ったのだけど、これはこれでよかったわ」と言っていた。
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