鈍感過ぎる彼女の恋は。《完》
「何をしている?」


あ、そのネクタイこの前買ったやつだ、と関係ない事を思いながら彼の質問の意図を考える。


「私何か仕事言われてましたか?」


もしかして頼まれた事忘れてたのか?と思考を巡らせるけど、業務は全て終わらせて来たはずだ。


「いや、そうじゃない。今日はタイ料理を予約してあるんだ。」

「はい?今日は夕食会もあるんじゃありませんでしたか?」


プログラムを見たので覚えている。
ホテルで会合で、そのあとそのまま食事会って書いてあったはず。


「食事会には参加しない。タイ料理に行くぞ。」

「でも、今日は約束が…」


そう言って高本を見る。
と、そこには何故か冷たい表情で社長を見据える彼がいた。


「高本?」

何だか様子がおかしい。


「社長、プライベートまで面倒見させてるんですか?こいつにも息抜きの場が必要だと思いますよ。日中はどんだけこき使っても良いとは思いますが…」

丁寧に話しているようだが、その冷静さが何だか怖い。
私の為に怒ってくれているのか…社長相手でもやっぱり冷静だな。

感心していると、右手を引っ張られ椅子から降ろされる。


「なっ…」

何をするんですか、と言いたかった私の言葉は、二人の異様な空気に飲み込まれた。


「お前には関係ない。」

社長は高本にそう言うと、私の腕を引っ張り、もう片方には私のバッグを持ってお店を出た。

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