鈍感過ぎる彼女の恋は。《完》
スクリーンには世界のあらゆる料理が映し出されていて、その中には見覚えのある物がいくつもあった。

劇場跡のイタリアンに、自分で作って食べたドイツソーセージ、あの海の上のタイ料理店の映像もある。


「あの時。俺も面接官の1人として居たんだよ。
お前は覚えてないみたいだけど。」


マイクを下ろし私だけに聞こえる声で言う。



信じられない。
あの屈辱的な面接の時に?
真ん中に座ってニヤニヤしていたあのおやじが強烈すぎて他の面接官を覚えていない。

私の表情から何か読み取ったらしい蓮水社長は、
「安心しろ。あいつは辞めさせた。」

物騒なことをこともなげに言う。

「正確に言うと、その為にのし上がって辞めさせた。」



あの後そんな事になってたなんて。

驚いて口をつぐむ私に、さらなる追い討ちがかかる。



「このcuisines of the worldが成功したら、お前も蓮水になれ。」


次の瞬間、左手の薬指に冷たい感触がした。


「え、これ…」


紛れもなく、さっき受け取りに行ったあの指輪が、私の左手で輝いている。


「失くすなよ。」

そう言ってマイクを構えた彼は私をこう紹介したのだ。


『彼女が私の婚約者です。』

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