鈍感過ぎる彼女の恋は。《完》
「来い。」


そう言ってくるりと方向転換したそいつは、第一営業部を出て行った。

来い?…私?

ちらり社長の方を見るとやっぱりニコニコ。
反対側の高本を見ると、隣にいた同僚に話しかけられていて、助けてくれる気配はない。


「小笠原くん、蓮水新社長がお呼びじゃよ?」

「…は、はい…。」


やっぱあたしだよね。
これから何を言われるのかと思うと怖くて仕方なかったけど、行くしかないみたいだ。



廊下に出ると、スタスタと先を歩く背の高い後姿が見えたので、早足で後を追った。

それにしても後姿だけなのに何だこの威圧感。
やっぱあの大企業からやって来たお偉いさんだからか?

にしては年が若いような…
考えながら歩いていたらいつの間にかエレベーターの前まで来ていて、止まっていた威圧感のある背中に激突してしまった。


ギロリ


「す、すみません。」


ああ、この人、絶対私をクビにする気だ…
前世で何か物凄い怨みでも買ったのだろうか。

ご先祖様のバカ…と罰当たりなことを思いながら、乗りたくもないエレベーターに乗った。
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