【短】ぜんぶ、夏のせい
その顔を自分がさせていることに、ちくりと心が痛んだ。
「この姿を見ても?」
「……白衣?」
「そう」
「わからない」
「この部屋を見ても?」
「……」
「このベッドの感触に覚えは?」
「ないです」
なんとか隠しているようだけれど、それでも見える絶望の色。
なんだかすごく、悪いことをしている気分になった。
「ごめんなさい」
「謝るな」
「でも、苦しそうだか」
彼の唇が、わたしの言葉を遮った。
重なる唇から発せられる熱に心が悲鳴をあげそうになった。
「っ、やめてください」
ドン、と彼の体を押せばすぐに離れた。
口元を袖でゴシゴシと念入りに拭く。
「……傷つくなあ」
「………」
それを見ていた彼は、自嘲気味に笑った。
ごめんなさい、そう思うのと同時に、本当は傷ついていないのだろうに、という感情が渦巻く。