【短】ぜんぶ、夏のせい
「結構です」
「なんで」
朦朧としてきはじめる意識をなんとかこちらに手繰り寄せる。
すかさず私に反論した彼は、わかりやすく眉根を寄せた。
「理由があって忘れたのだと思うからです」
「……」
「だったら、思い出す必要はないでしょう」
「……でも」
私の持論に散々考えたくせに、
「それでも俺は思い出させたい」
彼は自分を押し通した。
なんだか今ここで何を言っても埒があかないだろうという気分になった。
「ご勝手にどうぞ」
「じゃあ、聞いて」
それならばしっかり聞かねばと起き上がろうとする私の肩を彼は押してベッドに沈めた。
「俺は、この病院の医者。お前は、俺が担当している患者。俺らの関係は–––」
「待っ」
「恋人」
彼の目は私の目を見つめて離さない。
それが、言っていることは本当だというようで。
だけど。
「……嘘だ」