【短】ぜんぶ、夏のせい



嘘だと、信じたくてたまらなかった。




「嘘じゃない。だからさっき思い出させようとしてキスしたんだから」


「嘘です」


「もう一度すれば思い出すかな」


「やめてください!」


「傷つくってば」


「だって!」


「だって?」


「……だって」



だって、なに? なんと言おうとしてた?




「“ だって、思い出しちゃうから ” ?」


「……」


「図星?」


「違います」




彼がまた、くすりと笑った。


さっきまでの絶望の色はどこかへ行ったのか、見当たらない。




「可愛い」


「は?」


「そうやって意地でも違うっていうの、可愛すぎてやばいな。デレ待ちしちゃう」


「……うわ」


「待った。引くな」



クールな人かと思ったら、そうではなさそうで、表情が分かりづらくはあるけれど感情が読める面白い人。


こんなに特徴のある人を忘れるかな。



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