【短】ぜんぶ、夏のせい
本当に彼のことを知っていて、忘れたのだとしたら、何か彼との間に問題があったのだろう。
だったら、無理に思い出す必要はない。
「本当に違いますから」
「まあ、そう言うよな」
「は?」
「ん?」
だって、に続く言葉を、彼はどうやら知っているらしい。
何もかもわかっていると言いたげな顔が、無性にむかついた。
この人と話していると何だか面倒なことになりそう。
そもそも、この人と話している時間、もったいないよね?
「私、帰ります」
「ダメ」
「どうしてですか」
「退院許可おりてないから、しばらくここで泊まるんだ」
「えっ、てことは入院していると? なんで?」
「それは……えーっと」
なぜか言葉を詰まらせた彼に私は首をかしげる。
なんで詰まった…?
「何ですか」
「体、痛くない?」
「ところどころ痛いです」
「うん」
頷いた彼は少し傷ついた風だ。