【短】ぜんぶ、夏のせい
「それが何ですか…」
「くらくらする?」
「まあ。貧血みたいな感じですかね」
「うん」
彼の手のひらが私の頬をするりと滑った。
途端に蝉の声が五月蝿い。
「無理しないで休んでて」
「え、あの」
「夜また来るから」
有無を言わせないようにか、額にちゅっとキスを落として彼は白衣を翻した。
去っていく白い背中を見ながら、私はゴシゴシとおでこを擦った。
「なにあの人、意味わかんない」
本当に何がしたかったのかわからない。
何だったのだろうか。
とりあえず帰れないならと、休むことにした。
体がだるかったからか、目を閉じるとすぐに夢の世界へ誘われる。
「…………みずき」
意識が落ちる直前、誰かの声が聞こえた。
だけど、既に夢の世界への入り口に足を突っ込んでいたせいで、どうしても声の方は引き返せなかった。