溺愛ペット契約~御曹司の甘いしつけ~


「稀華? どうした、怖い顔して」


私の様子を不審に思ったらしく、甲斐が助手席側のドアを開けて声を掛けてくる。

その顔には、さっきのキスの余韻なんてまるでない。きっと、こっちがどれだけドキドキさせられたかなんて思いもよらないくらい、彼にとっては大したことのないスキンシップだったんだろうな。

私だけが翻弄されて、ばかみたい。


「……あのさ」


なんだか無性に腹が立ってきて、私は助手席から降りたところで甲斐を睨みつけた。


「あなたって、たとえば私が“一緒にお風呂に入りたい”とか言っても、何とも思わないんだよね?」

「……は?」


甲斐が意表を突かれたように、目を見開く。


「だからお・ふ・ろ! どうせ前のペットとは、一緒に入ってたんでしょ? だったら私とだって平気だよね? そうだ。ねえ今夜は洗いっこしよっか!」


もちろん一緒にお風呂に入る気なんてなく、ささやかな仕返しのつもりである。

さすがの甲斐も、少しは動揺してくれるかな? という期待を込めて、まるで本当に彼の愛犬になったかのごとく、瞳を輝かせる。

パタパタ振る尻尾がないのが残念だけど、思いきりにっこり笑ってみせた。


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