溺愛ペット契約~御曹司の甘いしつけ~
「どんな話?」
恋愛小説の棚にあったからには恋愛の話なんだろうけど、甲斐がそこまで好きになるのは、どんなストーリーなんだろう。
すると甲斐は私の手から【幸福の雪姫】をスッと取り、中身をぱらぱら捲りながら簡単に説明した。
「まあ、ひと言で言うなら……悲恋、だな」
「えっ。タイトルに“幸福の”、ってつくのに?」
「ああ。他人の幸福のために自分を犠牲にするってのは、お前も身に覚えがあるだろ?」
「……自分を、犠牲に」
甲斐の言う通り、身に覚えがありすぎて、胸に苦いものが広がる。
「これは、ある一人の姫様の幸せを思うあまり、自分の恋をはかなく散らせる、不器用な男の話なんだ。正直後味はあまりよくないが、不思議と共感するんだよな」
「そうなんだ……ちょっと、読んでみたいかも」
ハッピーエンドではなさそうなところが気がかりではあるけど、甲斐が何度も読むくらいだから、そこまで重い話でもないんだろうし。
「なら読むか? 恋愛小説っつっても童話みたいなものだから、読みやすいとは思う。ページも二百ないくらいだしな」
パタンと本を閉じ、私の方に差し出す甲斐。
「童話か……うん、それなら読んでみようかな」
受け取って表紙を改めて見つめていると、甲斐が壁にかかる時計を見上げた。
もうすぐ、夕方の四時。窓の外もだいぶ薄暗くなってきた。