溺愛ペット契約~御曹司の甘いしつけ~
一瞬、甲斐の言い分が正論に聞こえて、私は押し黙る。
昼間、正社員として働いているにもかかわらず夜の仕事までしなければならないのは、確かに理一のことでお金がかかるせいである。
でも、別にパチンコや競馬をするわけじゃない。
バンドでギターを担当する理一は、それに関連する機械を揃えたり、メンバーと集まって打ち合わせするのに外食したり、あとは煙草代が少々かかるけど……目立って無駄遣いをしているわけではないのだ。
バンド関係の支出に関しては、理一がずっと追いかけてきた夢を叶えるためだから、我慢させたくないし……やっぱり、私が頑張って支えるしかないんだ。
「理一は不甲斐なくなんてありません。彼は絶対にいつか夢を叶えますから」
きっぱり断言した私に、甲斐は冷めた視線を向ける。
「ホント、馬鹿な女だな」
その言葉は無視して、私はただ前を向いた。
馬鹿な女……ハタから見たらそうなのかもしれないけど、私までそう思ってしまったらおしまいだ。
私は理一を信じている。今は足踏みしているように見えるけど、それも未来のために必要な時間だって。
「……あ、あそこのコンビニで下ろしてください! 家、すぐそこなので」
二十分ほどで自宅近くまで来ると、私は運転手さんに話しかけ、コンビニの駐車場にタクシーを停めてもらう。
料金を払おうとバッグから財布を出すと、甲斐の手がにゅっと伸びてきて、私の手をつかんだ。