溺愛ペット契約~御曹司の甘いしつけ~


物語も半分ほどのところに差し掛かると、雲行きが怪しくなってきた。

極寒の土地で慣れない生活を続けていたせいか、エマが病気になってしまうのである。


『このままではきみが死んでしまう。城に帰ろう』

『いやよ。城に帰ったら今度はあなたがただじゃ済まないわ。病気が治ってもあなたがそばにいないのなら、今、あなたの顔を見ながら死んでいく方がずっといい』

『エマ……』


エマの愛情は嬉しいけれど、大切な人が弱っていくのを見ているのはフィリップにとって心が切り裂かれるようだった。でも、エマは頑として城に帰ろうとはしてくれない。

仕方なく山小屋にあるものだけで看病をすること数日、王家の使者が山小屋にやってくる。

使者は、エマとフィリップの行方をずっと追っていて、エマを連れ帰りに来たのだという。
小屋の外には、馬車が待っていた。


『今、姫様を返すならば、お前のことは罪に問わない。その代わり、二度とエマの前に姿を現すな。――王様からの伝言です』

『そうか……わかった』


フィリップはほとんど迷うことなく、首を縦に振った。エマは喋れないくらい高熱にうなされていて、彼女の意思はわからなかったが、フィリップはホッとした。

これで、エマは助かる。それ以上に望むことなんて、何もない。

そうして引き裂かれてしまった二人。フィリップは山小屋にとどまり、静かに、エマの笑顔を思い出しながら暮らした。

一方エマは、城に戻り医者の処置を受けると、体は元気になった。しかしその表情は、いつも悲しみに暮れていた。

そんな彼女を見かねたエマの父、つまり国王は、エマのもとに婚約者候補となる男性レオンを連れてくる。

レオンは身分も申し分ない隣国の王子で、彼もエマをひと目で気に入った。


< 110 / 231 >

この作品をシェア

pagetop