溺愛ペット契約~御曹司の甘いしつけ~
そのとき、リビングのドアがガチャリと音を立てた。
「おい稀華、長いこと放っておいて悪かったな」
「ぎゃっ!」
予告もなしにリビングに入ってきた甲斐に、変な悲鳴を上げてしまう。
動揺しつつもメモは本の中に何とか戻して、ドアの方を振り向く。私の驚きっぷりに甲斐のほうも驚いた顔をしたあと、苦笑しながら近づいてくる。
「そんなに驚くことはないだろ。そういや、どの辺まで読めた?」
ソファの背後にまわった甲斐が、背もたれに手をついて私の顔を覗き込む。私は本を両手でぴっちり閉じたまま、たどたどしい口調で答えた。
「エ、エマがお城に帰って、婚約者が登場したとこ……」
「そうか。まだまだこれからだな」
軽く言った甲斐は、ソファの前に回り込んできて、私の隣に腰を下ろした。
少し間を空けて、ではなく、完全に寄り添う形で座るものだから、密着している部分に熱が集中してくる。そうやってさ、恋人みたいに振る舞うの、やめてくれないかな……。
「ちょ、ちょっと、離れてもらえません?」
「……断る。ずっと作業してたから疲れてるんだよ。そういうときはお前の出番だろ?」
まったりとした声で囁いた甲斐は、肩を抱くように腕を伸ばしてきたかと思うと私の頭に手を添えて自分の方に引き寄せ、私の髪に鼻をくっつけた。
クン、と鼻を鳴らすのが聞こえたあと、唇が耳のそばに移動して、至近距離で甘い声が響いた。
「同じシャンプー使ってるはずなのに、いい匂いだな、お前」