溺愛ペット契約~御曹司の甘いしつけ~
東京という土地に対して、上京する前に抱いていた、キラキラしたイメージは幻想だった。
本当の東京は、無機質で、現実的で。じっさい、蓮人のようにキラキラした世界を生きる人もいるけど、そんなのほんの一握りで。
……本当は蓮人だって、私なんかには、手が届かない人で。
そのとき冷たい北風が吹いて、私は小さく身震いした。なんだか、寒さのせいで冷えた鼻が痛いな。何気なくそう思った、次の瞬間――。
目の前にふっと大きな影がかかり、温かい腕がふわりと背中に回された。
な、なんで急に、抱き締めたりなんか……! 路上での突然のハグに、私は息が止まりそうになった。
夜で人通りが少ないとはいえゼロではない。すれ違う人の足音が聞こえて、注目されているであろうことは容易に想像できる。
「蓮人……は、恥ずかしいよ」
「……ンな泣きそうな顔してる奴を放っておけるかよ」
泣き、そう……? そう言われてはじめて、自分の視界が涙でぼやけていることに気が付いた。
わ、ほんとに泣いてる……! そっか、だから鼻の奥が痛くなったんだ。
「きっとお前、まだ精神的に不安定なんだよ。昨日はアイツからの電話もあったし……本当はまだ、心が参ってんだろ」
「ち、ちが……」
たぶん、この涙は理一のことは関係ない。それを伝えたいのに、より力を強めた腕にぎゅっと抱き締められて、言葉を封じられた。