溺愛ペット契約~御曹司の甘いしつけ~
寝室からリビングダイニングに移動し、コーヒーだけささっと飲むと、身支度を整える。
先日美容院で施されたメイクをなんとなく真似して、グレージュ色のレディススーツに袖を通す。もちろん、ブランドはタモツミョージン。スカートの裾がマーメイドタイプで、女性らしいシルエットだ。
その姿を全身鏡に映すと、数日前とは別人の、垢抜けた自分がそこにいた。
へえ……人間、やっぱり見た目に気を遣うと変わるもんだな。って、感心している場合じゃない。
蓮人から預かった鍵を使って部屋を施錠し、エレベーターでマンションの一階に降りる。
そしてエントランスを通ったとき不意にカウンターから「行ってらっしゃいませ」と声をかけられたのでびくっとしてしまった。
ホテルマンみたい、と思っていたその男性は“マンションコンシェルジュ”という職種らしい。
来訪者の受付はもちろん、住人不在の時に荷物を受け取っておいてくれたり、タクシーを手配してくれたり。
出張や旅行で長期不在にするときには、ペットの世話まで頼めるのだと蓮人が言っていた。
……さすがに、私が世話をされることはないと思うけど。
「い、行ってきます」
まだその存在に慣れない私はちょっと緊張気味に挨拶を返し、自動ドアから外に出た。