溺愛ペット契約~御曹司の甘いしつけ~
渋谷といえば、スクランブル交差点や大きなショッピングビル。人が多く、活気のある若者の街っていうイメージだけど、そうじゃない場所もある。
駅前の人波をすり抜けて、今一番流行している女性向けブランドバッグの巨大広告を掲げた高層ビルの下を通りしばらく歩けば、私の職場がある。
ふたつの中層ビルに挟まれて完全に日照権を侵害されている、三階建ての古ぼけたビル。
聞くところによると昭和初期の建造物で歴史的価値があるらしいけど、同僚たちは“今時エレベーターもないなんて!”とその不便さを嘆いている。
一階にはレトロな喫茶店が入っていて、二階と三階が私の勤める食品卸会社である。
社員数は二十名ほどで、社長の下に営業部と商品部、そして私のいる総務部で成り立つ小さな会社だ。
「おはようございます」
総務部のドアを開け、いつものように小さな声で挨拶しながら入っていく。
地味な私の存在に気付く同僚なんて、ほぼいない。それがいつもの日常で、むしろ居心地がいい。
このまま五時半の終業時刻まで静かに事務仕事をして、また誰にも気づかれずに退社していく……。今日もそんな平凡な一日が過ぎていくのだろうと、当然のように思っていたのだけど。