溺愛ペット契約~御曹司の甘いしつけ~
甲斐は私のスマホを操作しながら上着を受け取り、それが済むと私の手にスマホを返しながら言う。
「ちゃんと覚えたか? 飼い主の匂いは」
「べ、別に意識して嗅いでません!」
……本当は、嗅ぎ慣れない色っぽい香りに少々動揺したけど。
「まあいい。どうせこれから嫌でも毎日嗅ぐことになるんだからな」
タクシーの車体に寄りかかり、余裕しゃくしゃくな表情を浮かべる甲斐に、むかつきが再燃する。
もう! さっきから、なんで私が飼われること前提なの!
アンタみたいな傍若無人な御曹司、今日限りでサヨナラですから!
「では、今度こそ私はこれで」
パパッと適当な会釈をして、甲斐に背を向ける。
「ああ。また近いうちにな。稀華」
甲斐の呼びかけに、私は返事をしなかった。
“また”なんて二度とないってば! 心の内で呟きながら、大股でその場を離れる。
上着を返してしまったために、ドレスから丸出しの肩や腕が冷たい風にさらされて、思わずくしゃみが出る。
「うう、寒い」
とにかく早く帰ろう。変な奴と関わり合いになっちゃったけど、もう会うこともないだろうし甲斐のことは忘れてしまおう。
それより理一、大丈夫かな……。