溺愛ペット契約~御曹司の甘いしつけ~
やきもきしながら美鈴さんについていき、駅の方向へ歩くこと数分。私たちは雑居ビルの地下1階にある居酒屋の暖簾をくぐった。
暖簾の柄は丸々太ったブタがふてぶてしく寝そべったイラストで、もしかして……?と思った私は狭い通路を歩く美鈴さんの背中に聞いてみる。
「もしかして、お店の名前って“ねぶた”ですか?」
「ご名答〜。あのブタ可愛いでしょ? 前にクラブのお客さんが教えてくれたんだけど、青森の郷土料理出してくれるお店なの」
「わー、やった! 楽しみです」
いかにも飲み屋という感じのレトロで賑やかな店内を進み、いそいそと案内された席に着く。美鈴さんは壁に貼られた一品料理を見回していて、私は手元にあるメニューを開いた。
ドリンクはとにかく地酒の種類が豊富で、お料理もせんべい汁、いがめんち、貝焼き味噌……私たちには馴染みのあるものばかり。
どれも食べたくなって目移りしつつ、美鈴さんと相談してオーダーを済ませた。
ちょっと値の張る純米酒で乾杯した後、料理に箸を伸ばしているとき、私はあることを思い出して呟いた。
「そういえば、彼が出張してる先……八戸(はちのへ)なんですよね。美味しいものいっぱい食べてるかなぁ」
「あら、偶然ね。実は哲も帰郷中よ。それはともかく、彼に青森のいいところ、たくさん宣伝しておいた?」
「いえ、あんまり……ちょっと今、気まずい空気で」