溺愛ペット契約~御曹司の甘いしつけ~
「俺にしか懐かないようにしつけてある」
コンビニの脇道に入って三分も歩けば、見慣れた自宅のぼろアパートに到着した。
二階建ての建物は、本来白いはずの外壁が黄ばんだり黒ずんだり、とにかくひどい色をしている。
お洒落なアパートも多くある下北沢という街のなかで、よくもまあこんな物件を見つけたものだと自分でも思うけど、とにかく家賃が安いのだ。
理一も“いかにも下積み時代って感じがいい”と意外にこの住みかを気に入っていて、上京してからふたり、ずっとここに住んでいる。
カンカンと錆びついた金属階段を上り、二階の角部屋へ着くと、すぐにドアを開けて中へ入った。
「ただいま! 理一、大丈夫?」
短い廊下の先にある部屋で、彼の姿はすぐ見つかった。
脱色しすぎて白っぽくなっている金髪は長めのショートヘア。
顔立ちは中性的で、色も白く身体のセンも細いため、男性ながらキレイと褒められることも多い。
そんな彼は、布団が敷きっぱなしのリビング兼寝室の壁に寄りかかり、煙草をくわえて無気力そうに何かの楽譜を眺めていた。
……寝てなくて平気なのかな?
私の姿に気付いた彼は、床に置かれた灰皿に煙草を押し付け、にこにこしながら立ち上がる。
「ごめんね、仕事中に。でも、まれが帰ってこないとどうにもなんなくて」
「うん。どうしたの? ご飯? お粥とか作る?」
一目散に帰ってきちゃったけど、さっきのコンビニで何か買ってくればよかったかな……。