溺愛ペット契約~御曹司の甘いしつけ~
私はカウンターにグラスを置いて、コテンと頭を蓮人の肩に預ける。そしてシートの上にある彼の大きな手に、自分の手をそっと重ねた。
拒否されたらどうしようと内心怖かったけれど、蓮人は自然に握り返してくれた。
それからしばらくお互い何も喋らなかったけれど、決して気まずくはなかった。
静かに蓮人のぬくもりだけを感じていられる時間がこの上なく幸福で、満ち足りた気持ちになる。
……でも、そんな時間も永遠ではなくて。
「稀華。そろそろ、一度降りるぞ」
蓮人に声を掛けられ、私は名残惜しく思いながらも彼に続いてリムジンから降りた。そこは人気(ひとけ)のない坂の途中で、暖かかった車内が嘘のような冷たい風が吹きすさび、思わず小さく震えてしまう。
「うー……寒い」
「ほら、これでも掛けてろ」
蓮人がそう言いながら、ドレスから丸出しの私の肩にキャメル色の大きなストールを掛けてくれた。
「ありがとう。……あったかい」
何より彼の優しさが嬉しくて、心までじんわりと温まる。
蓮人のこういう、一見ぶっきらぼうな言い方だけど、さりげない気遣いの出来るところが好きだな……。