溺愛ペット契約~御曹司の甘いしつけ~
「甲斐」
そんな声でハッと我に返ると、地元の横丁にある賑やかな飲み屋の喧騒の中に俺はいた。
俺を呼んだのは向かいに座る俺の部下内藤(ないとう)で、青森出身の彼には今回の出張でかなり助けてもらった。そして内藤は部下とはいえ同い年で、仕事を離れれば気さくに話す仲である。
今日の昼ごろに仕事は無事完了し、せっかくだから、八戸の新鮮な魚介類と地酒を楽しもうという誘いに乗って、午後のまだ明るいうちから二人で飲んでいたのだ。
「なんだ」
思考を読まれたはずはないのに、稀華のことばかり考えていたのが気恥ずかしくて、つっけんどんに返事をしてしまった。少し申し訳ないと思いつつ、相手が気心の知れた内藤だからよしとする。
「そんなに怖い顔しなくても。いや、さっきからぼーっとしてるから、よっぽど東京に帰りたいんだなと思っただけで」
「お前は、帰りたくないのか?」
「だって青森は地元だし。東京には別に俺のことなんか待ってる人いないからなぁ。そろそろ可愛いペットでも飼おうかと思い始めてるほどヤバい状況」
「……ペット、ね」
そりゃ飼ったら飼ったで苦労するぞと言おうとしたが、やめた。コイツが言ってるのは犬や猫のことだ。“恋人になって”と言われて困ることもない。
そんなことを思いながら地酒をあおった俺に、内藤が俺の顔色を窺うように言った。
「帰りたい甲斐には悪いけど、もう一軒付き合って欲しいところが」
「付き合って欲しいところ……?」