溺愛ペット契約~御曹司の甘いしつけ~
「どーもー! ロッテンアップルズです!」
代表してボーカルが挨拶をすると、会場が揺れるほどの歓声が上がった。どうやら、青森での彼らの人気は確かな物らしい。隣にいる内藤も、声こそ上げないものの目を輝かせている。
その後、ひとりひとりの紹介が始まって、しばらく冷静に眺めていた俺だったが……。
「ギター担当、リーチでーす」
色白で線の細い金髪の男が、自分の前にあるスタンドマイクで飄々とそう挨拶をした時、一気に胸がざわめいた。
まさか……いくらここが青森だからって、そんな偶然はないだろう。そう思いながらも、金髪のギタリストから目が離せない。
稀華の地元は八戸なのか? いや、地元がどこであれ県内にライブハウスなんて何軒もないだろうから、このギタリストがヒモ男の“リーチ”でも、まったく不思議はない……。
胸にもやもやとしたものを抱えて“リーチ”ばかり見つめるうちに、再びボーカルが話し出す。
「たぶん、来年……になると思うんですけど、ちょっといいお知らせができそうなので、一足先に凱旋ライブってことで帰ってきました!」
その知らせの内容は語られないながらも、客席からは黄色い声が上がる。同時に、「デビュー? デビュー?」とワクワクしたような声もあちこちから聞こえたが、ボーカルは「ゴメンね、まだ言えないんだ」と言葉を濁していた。