溺愛ペット契約~御曹司の甘いしつけ~


「なんか、飲み過ぎちゃったみたい」

「……だろうな。顔赤いし、目も潤んでる」

「うそー、じゃぁいつにも増してぶさいくだ」


言葉とは裏腹に、ふふっと楽しげな声を漏らす稀華。

違うだろ。いつにも増して……“そそる”顔をしてるんだ、お前は。まったく……俺を煽るのもいい加減にしてくれ。

俺は邪魔なマフラーやコートを脱ぎ、ソファに寝そべる彼女の上に覆いかぶさった。彼女の潤んだ瞳に映る俺は、まるで獣だ。

自分の余裕のなさに呆れながら、まずはさっきから気になっていた、食事の相手を聞いてみることにした。


「え、あ……美鈴さんっていう……地元の先輩、だけど」


そのとき稀華の口から出た「美鈴さん」という名には聞き覚えがあり、記憶をたどった俺は思い当たった。“リーチ”からの電話があった時、本人より先に稀華と話していた人物だ、と。

もしかしたら、青森で俺が抱いた予想を裏付けることを、その美鈴さんから聞いていたりしないだろうか。


「近況とか……聞いたのか? アイツの」

「アイツ……?」


アイツとだけしか言わず名前を出さない自分が悪いのに、すぐにぴんと来ない稀華がじれったく、俺はつい苛ついたような声を出してしまう。


「言わせるな。……リーチってやつのことだ」


稀華はそれを聞いてようやく何か考え始めたが、「えっと」と言ったきりなかなか言葉を継がなかった。

何も聞いていないのなら別にいい。でも、ようやく口を開いた彼女の表情はぎこちなく、俺と目を合わせずにこう語った。


「本人は元気そうだけど……バンドのことは、特に進展はないみたい」


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