溺愛ペット契約~御曹司の甘いしつけ~
「……最後だからって、まれのこと取って食ったりしません?」
「ええ。……約束します」
「じゃあ、デートが終わったら速攻で迎えに行きますから……連絡先を教えてください」
そうして俺は成瀬と互いの連絡先を交換し、クリスマスイブの夜に稀華とはサヨナラすることを、固く約束した。
用が済んだ成瀬は副社長室を出て行こうとして一度は俺に背を向けたが……なぜかドアの前でピタリと足を止め、こちらを振り返った。
「……やっぱ、腹立つ」
そう呟いたかと思うと、大股でズンズンこちらに戻ってきた成瀬は、唐突に俺の胸ぐらをつかむ。
「なんで、正々堂々向かってこないんだよ」
「……なんのことだ」
しらを切りつつも、成瀬が俺の気持ちに勘づいているのであろうことがわかった。だからといって、俺の態度は変わらない。そのことがさらに彼を苛立たせたようだ。
「ほら、それだ。そのすかした態度が気に食わないんだよ!」
ブン、と成瀬の拳が飛び、俺はそのまま頬を殴られた。一瞬よろめいたが倒れることはなく、痛む口元を指で拭うと赤いものが付いた。
成瀬は興奮冷めやらぬ様子で肩を上下させていたが、やがて目を伏せるとプイと顔を背け、そのまま無言で副社長室を後にした。
「……俺だって、こんな俺は気に食わねぇよ」
ひとりになった部屋で本心を呟いた後、俺は何食わぬ顔で仕事を再開した。