溺愛ペット契約~御曹司の甘いしつけ~
それから、秘書を呼び戻して年明けに行くことが決まっている海外出張の日程を調整するように依頼した。
稀華を手放したそのあとで、二人で暮らした思い出や彼女の存在を感じさせるものが溢れるあのマンションに帰る自信はない。そのうち、あの部屋自体引き払ってしまおうか。
そんな風に思ってしまうことこそが、自分の本心を何より証明しているのに、俺は見て見ぬふりをして、心に蓋をするのだった。
* * *
そして迎えた今日のクリスマスイブ。正直、理性のタガが外れそうになるシーンは何度もあった。
ドレスに身を包んだ彼女を“お姫様”と呼んだのはお世辞でもなんでもなく、彼女は一日中、俺の視界の中できらきら輝いていた。
そして何気ない会話の中で、ときどき俺を勘違いさせるような発言をしては、潤んだ瞳で見つめてきて。際限なく溢れる愛しさに、負けそうになったのも事実。
……けれど、成瀬からの電話で俺は現実を思い出し、踏みとどまった。
あとは宣言通りに稀華を迎えに行った成瀬が、彼女を幸せにしてくれる。
いくら見た目がひ弱そうでも、アイツだって男だ。きっと今頃、あのホテルの部屋で、今まですれ違っていた分を取り戻すように、成瀬は稀華を――。
そこまで想像しそうになり、俺は小さく頭を振ってベンチに背中を預けた。
……馬鹿なことを考えるのはやめよう。俺はもう、無関係の登場人物になったのだ。