溺愛ペット契約~御曹司の甘いしつけ~
「……これも、書き直さねえと。いや、もういっそ、データごと消去するか」
小さく呟き、ベンチの隣の座席に置いていたパソコン用のバッグを膝の上に乗せた。取り出したパソコンを開き、びっしりと並んだ文字の羅列を一から目で追い始める。
――これは、俺と稀華の出会いから今までを物語にしたもの。
フィクションを交えながらも、俺の想いをひとつひとつ、積み上げるように書いていたものだ。
俺はそれを読みながら、彼女との出会いに思いを馳せた。
* * *
たまたまひとりで訪れた、静かなバー。そこでたまたま隣の席にいたのが稀華だった。
彼女はしたたかに酔っていて、機嫌よさそうに連れの女性と話していたが……その会話の内容が、俺にはあまり気持ちの良くないものだった。
「やっぱり、男は夢がないとダメですよねえ」
「そうねえ。ないよりはある方がいいかもね」
そんな話をしている二人に徐々に苛立ち始め、連れの女性が電話か何かで席を立ったタイミングで、俺は隣の稀華に突っかかった。
「……夢見てばかりでも困るけどな」
「ん? 何か言いました?」
「夢を叶えられるヤツなんてのは、ほんの一握りだ。才能もないのに夢ばかり追って、フワフワしてる男の方がよっぽどダメだと思うけどな」
そう指摘したとき、稀華は急に顔を真っ赤にして気まずそうに黙り込んだ。その時はわからなかったが、おそらく成瀬のことを言われたような気になったのだろう。