溺愛ペット契約~御曹司の甘いしつけ~
「あなたはどうなんですか! そこまで言うからには夢を叶えたその一握りなんでしょうね!」
痛いところを突かれたが、平静を装って答えた。
「……俺は。夢を見る時期はもう終わった。それだけだ」
「なにそれ。カッコつけちゃって」
「お前こそ、自分の男はどうなんだ」
俺は仕返しのつもりで聞いたつもりだったが、稀華も相当俺に腹が立っていたらしい。フンと鼻を鳴らして、急に上から目線の口調で話す。
「……お生憎さま。私の婚約者は売れっ子ミュージシャンでございますの。近いうちに白金台に新居を購入する予定ですのよ」
その時俺はそれが真っ赤な嘘だと見抜けるはずもなく、聞かなきゃよかったと思いながら負け惜しみのように吐き捨てた。
「そりゃご立派なことで」
俺としてはそこで会話を打ち切ったつもりで、もう他人の話に首を突っ込むのはやめようと思っていたのだが……俯いて何か考えていた稀華が急に顔を上げ、ぽつりと呟く。
「……あなたに、彼を笑う資格なんてない」
あなたというのは、俺のことだろうか。再び稀華の方を向くと、彼女はどうしてか目に涙を一杯にためて、こう言ったのだ。
「夢を追うことから逃げた人に、他人の夢を笑う資格なんてない!」
俺はなぜ自分が怒鳴られなければならないのかと、理不尽な怒りを感じつつ、こうも思った。
腹が立つのは、図星を突かれた証拠ではないか。本当は自分でも、夢から逃げた自分に、負い目があるのではないか、と――。