溺愛ペット契約~御曹司の甘いしつけ~
そのひと言で、俺の胸に昔のような欲望が湧き上がってきた。再び、自らの言葉で何かを書いてみたいという、漠然としながらも、確かな欲望が。
それから、仕事の合間にいろいろ書いてみるようになり、なんとなくカンを取り戻してきたなと手ごたえを感じ始めたころに、接待で訪れた銀座のクラブで稀華に再会したのだ。
そこで彼女の嘘を知ることになり、騙されていた腹いせもあったが、彼女自身にも興味が湧いて、多少強引に彼女を連れて帰ることにした。一度は彼女を自宅に戻したものの、結局は稀華自身が望んで俺たちは一緒に暮らすことになって……俺は次第に、彼女に惹かれていった。
本当は誰より弱っていたのに、ひたむきに成瀬を応援し続けた優しさ。俺の発言や行動にわかりやすく喜んだり照れたりする素直さ。それらに触れるうち、いつしか愛しさは募り、稀華は特別な存在へとなった。
だから、俺は決めたのだ。彼女との物語を書き、それを夢への足掛かりにしようと。
しかし……。
彼女は結局、別の登場人物とハッピーエンドを迎えてしまった。
俺はパタンとパソコンを閉じ、ふっと自嘲する。やっぱりもう、俺には最後まで小説を書ききることなんか、できやしないんだ――。
勝手にそう結論付け、けれど小説のデータを消去する踏ん切りつかないまま、パソコンをバッグにしまい直したその時だった。