溺愛ペット契約~御曹司の甘いしつけ~
「おい、さっきは聞き流したけどタモさん言うな。あんまり直らんようならお前のこともクロエって呼ぶぞ」
嫌悪感丸出しで明神さんが放った言葉に、私は目を丸くする。
ん? クロエ? なんで、ナナセさんが……?
「やだ! 蓮人に溺愛されてる気がして寒気が――」
ぶるっと体を震わせる素振りで言いかけたナナセさん。でも、途中で「あっ」と言いながら気まずそうに私を見た。
「ごめんね。蓮人のこと好きな子の前で変なこと言って。ほら私、苗字が七瀬で下の名前が“クロエ”なんだけど、日本に戻ってから蓮人が知り合いに譲ってもらった子犬が偶然クロエちゃんって名前でね? まぁあの子は正式には“黒江”らしいんだけど、紛らわしいじゃない? だから、芸名も最近七瀬クロエからナナセに変えたんだ」
クロエと、黒江……。今の情報を整理すると、蓮人が飼っていて溺愛していたのは、“黒江”ちゃんの方ってことか。でも、それなら――。
【蓮人に飼われるのはもう飽きた。クロエはひとり立ちします。さよなら】
蓮人の本の間から見つけた、あのメモの“クロエ”は……?
「ナナセさん、蓮人のマンションで一緒に住んでたなんてことは……」
「あー、あるよ。一時期ね」
あっけらかんと返事をされて、私はグサッと心臓に刃物でも刺さったようなショックを受けた。
だって、つまりナナセさんは蓮人の元カノってことだよね……? 地味な私よりよっぽど、蓮人にはお似合いだ……。
ナナセさんは私の想像していることがわかったらしく、「あ、そういうのじゃないの」とはっきり否定した。