溺愛ペット契約~御曹司の甘いしつけ~


蓮人の口から語られた、物語の続きはこうだった。

フィリップに頼まれて、魔法使いのリリィはエマの記憶の中からフィリップと彼に関するすべての事柄を、本当に抹消してしまった。エマはフィリップを忘れ、彼に恋した記憶もなくしてしまう。

けれどそのおかげで、身分の確かな婚約者レオンとすんなり結婚し、二人は夫婦になり、王家も安泰……となったのだけれど。


ある冬の日、王国に珍しく雪が降った。城の外壁も、庭園も、城下町も何もかもが真っ白になるほどの、大雪。

その景色を目にしたエマの瞳から、突然ぽろぽろと大粒の涙があふれた。


『エマ、どうしたの? 何かあった?』


レオンはとても心配してそう言ったものの、エマは首を横に振った。


『……いいえ。悲しくて泣いているわけじゃないの』

『じゃあ、どうして……』


エマにも理由はわからなかった。ただ、雪を見ていると、懐かしいような切ないような、不思議な気分になった。

でも、レオンには心配を掛けてはいけない。私の愛する夫には、いつも笑顔でいて欲しい。


『……きっと、今が幸せだからだわ』


エマはレオンの手を握り、微笑んで見せた。レオンもホッとしたようにうなずき、二人は窓を閉めて暖炉のそばへと向かう。その姿は、幸せな夫婦そのものだった。


けれど、その翌年も、また次の年も。雪が降るたび、エマは涙を流した。

それは、魔法使いリリィの悪戯なのか、フィリップの愛情の強さがそうさせたのか。誰にもわからない。

しかし、エマは涙の後でいつも笑った。自分は幸福なのだと、証明するかのように。


彼女の涙はいつしか神々しいものとして国民にありがたがられるようになった。

そして、彼女が命を全うしこの世を去ってからも、エマの名は【幸福の雪姫】として、王国で語り継がれていった――。


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