溺愛ペット契約~御曹司の甘いしつけ~
ムキになる私の話を聞いているのかいないのか、顔色ひとつ変えない甲斐は、私の手のなかにあるコーヒーのカップに気付いて言う。
「これ、片方は俺の?」
「え? ……あ。そうだけど」
「サンキュ。急いで来たから喉乾いてた」
私の肩から離れていった甲斐の手にカップを渡すと、彼はすぐに喉を鳴らしてそれを飲み始める。
い、急いでって……知り合ったばかりの私なんかのために、なんでそこまで。
上下する喉仏を見ながらそんな疑問を抱く私に、カップを空にした彼はひとつ息をついてから小さく笑った。
「うまかった。飼い主の好み心得てるな」
「好み? 別に、特になにも考えなかったけど……」
「じゃあ今覚えろ。俺が好きなのはちょっと冷めたブラックだ」
「なんで冷めたやつ? 熱い方がおいしくない?」
素朴な疑問を投げかけると、彼はちょっと気まずそうに視線を泳がせてぼそっとこぼす。
「……猫舌なんだよ」