溺愛ペット契約~御曹司の甘いしつけ~
私はきょとんとして甲斐を見つめたあと、こみ上げる笑いを抑えることができずにぷっと吹き出した。
「に、似合わない……」
この自信満々で強引な男が、熱いコーヒーやスープを前に必死でふうふう息を吹きかけているのかと思うと……。
肩を震わせて笑いをかみ殺す私を甲斐はジロッとにらんだけど、目はそこまで怒っていなかった。
それからため息をひとつ吐いた彼は、私を見下ろしてひとこと。
「笑えんじゃねぇか」
その言葉に、自分の置かれた状況を思い出し、笑顔が固まる。
私そういえば、家とお金とカレシへの信頼を一気に失って、落ち込んでいるところだった……。
甲斐は再びどんより肩を落とす私の腕をむんずとつかみ、駐車場に停めてある一台の車の前まで連れて行った。
コンビニの明かりを反射して煌めく車体は黒。そしていやでも注目してしまうのは、車体の前後についている、有名な高級外車のエンブレムだ。
私がその存在感に圧倒されている間に、甲斐は助手席のドアを開けてくれていた。
うう、こんなくたびれたトレンチコートで乗ってもいいのだろうか……。
車内を覗くと内装もラグジュアリーな雰囲気で、気後れしてしまう。