溺愛ペット契約~御曹司の甘いしつけ~


「ほら、早く乗れ」

「し、失礼します……」


甲斐にせかされてやっと観念した私は、遠慮がちに助手席にお邪魔した。

続いて甲斐も運転席に乗り込んでくると、ふわっと彼の香りが鼻をくすぐってどぎまぎしてしまう。

よく考えたら私、男の人と二人で車に乗るなんて、初めてじゃない?

なんか、妙に緊張……。


「じゃあ出るぞ」

「は、はいっ。…………わぁっ!」


ぎこちなく返事をした瞬間、甲斐の腕がにゅっと伸びてきた。それがまるで私を抱きしめるような動作だったから、ドッキン、と心臓が飛び出しそうになった。

けれど、よく見れば彼の腕が回されたのは私の身体ではなく、助手席のシート。


「なに変な声出してんだよ。……バックしないと出れないだろ」

「あ……はは、そー、ですね」


そっか、バックするために手を添えただけなのね……。

怪訝そうな甲斐に取り繕った愛想笑いを返したけれど、なかなか心臓の乱れはおさまらない。

たぶん、今まで男の人なんて理一しか知らなかったから、男性に免疫がなさすぎるんだ。

しかも、口を開けばムカつくことばかり言う甲斐なのに、真剣にハンドルを握る横顔は、悔しいけど……カッコいい。

相手が別に好きな相手ではないとはいえ、大人の男性とのドライブ初体験に、私の胸の高鳴りはなかなかおさまらなかった。


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