溺愛ペット契約~御曹司の甘いしつけ~
「お帰りなさいませ」
カウンターの向こうでにこやかに頭を下げるのは、ホテルマンのような清潔感のある男性。
加えて足元の磨き抜かれた床も、ロビーに置かれた高そうな壺も、頭上に輝くシャンデリアもやっぱり高級ホテルのよう。
甲斐は、初めて見るものばかりで挙動不審にキョロキョロする私を見ながら、フロントの男性に告げた。
「悪いけど、こいつの顔と名前覚えてくれ。名前は水樹稀華。今後、俺の部屋に自由に出入りさせていいから」
「かしこまりました。水樹稀華様ですね」
フロントの男性は私に微笑みかけながらササッとメモを取っている。
じゃあ、私は今度から顔パスみたいな感じでここを通れるんだ……。なにそれ。すごい。こんな世界があるなんて。
普段の庶民の生活ではおそらく味わえない感動を何度も覚えながら、エレベーターを使って甲斐の部屋、最上階のペントハウスとやらを目指す。
「なんか、夢の中にいるみたい」
上昇するエレベーターの中で正直な感想を伝えると、甲斐は苦笑しながら私に忠告する。
「でもお前、ペット扱いなんだぞ?」
「別にいいよ。今までの生活、ペット以下だった気もするし……」
私、ATMだったんだもん。生き物ですらなかったわけだから、犬や猫のように扱われた方がよっぽど幸せだ。