溺愛ペット契約~御曹司の甘いしつけ~
「その上、私の口座から勝手にお金を下ろしていたことが発覚して、もうなんかどっと疲れちゃって。もう、あの人と一緒には生活していけないなって、漠然と思いました。それで……」
その先の言葉を継がない私の代わりに、甲斐が納得したように言った。
「俺に、電話してきたってわけか」
「……ごめんなさい。無理なお願いをして」
「いや、無理も何も、俺は最初からお前を家に連れて帰るつもりだっただろ」
甲斐は当然のことのように言い放ち、襟元のネクタイをうっとうしげに緩めた。
その仕草になぜかドキッとして、目線をパッと彼の方から逸らす。
当然ながら、会社勤めの経験がない理一はネクタイを締めたことなんてない。
だから、男の人がネクタイを緩めるっていうただそれだけの一瞬で、こんなにオトナの色気を感じさせられるとは思ってもみなかった。
で、でも相手は甲斐なんだから、ドキドキするだけ損だよ!
「……そもそも、なんで私を連れて帰ろうと?」
おずおず彼の方に向き直り、平常心を装って尋ねてみる。
すると甲斐の深い黒色の瞳にじっと見つめられ、またしても心臓がジャンプする羽目になったけど、今度は目が逸らせなかった。
自分の意思と関係なく、甲斐の視線に捕らわれてしまったような、そんな感覚に陥って――。