溺愛ペット契約~御曹司の甘いしつけ~
「さっきから“飼う”とか“引き取る”ってなんなのよ! いくらあなたが御曹司でも、嫁入り前の娘ひとりさらってくんだから、それなりの値段は――」
甲斐という男の背中をばしばし叩いて主張するけれど、聞こえてきた店員の言葉は無情なものだった。
「ありがとうございます。実はその娘は完全にコネで入った人材で、指名もつかず店でも持て余していたんです。なので無料ででお持ち帰りください。本日はお酒も飲まれていませんし、席料だけ頂戴いたします」
な、なんですと……? そ、そりゃ指名はつかなかったけど、私なりに一生懸命だったのに!
「ほう、珍しく良心的な店だな。じゃあ、遠慮なくもらっていく」
甲斐は私を担いだままサラッと会計を済ませ、店の出入り口に向かう。
その途中、先輩がご丁寧に私の手荷物を持ってきてくれ、甲斐に渡した。
私は泣きそうになりながら、私のコネ採用に一枚噛んでいる美鈴さんに縋るような視線を向けたけれど、ニコニコと手を振っていて愕然とした。
美鈴さーん! あなたは味方じゃないんですか……!
ガクッと体の力が抜け、私は仕方なく甲斐の背中にしがみついた。
「やっと大人しくなったか。……そういや、お前、名前はなんだ」
「あなたに教える義理はありません」
「ふ、反抗的だな。しつける甲斐がありそうだ」
楽し気に呟いた彼が店外に出ると、ひんやりとした十一月の夜風に肌を撫でられ、小さく体が震えた。