溺愛ペット契約~御曹司の甘いしつけ~
あることを思いついた私は甲斐の前に立ちはだかり、胸を張って宣言する。
「ペットでも、コーヒー淹れるくらいの芸はできるんだから!」
甲斐は一瞬きょとんとして、でもすぐにふっと目元を緩めて笑ってくれた。
「……なら頼む。俺の好みは覚えてるな?」
「もちろん! ちょっと冷めたブラックね」
自信満々に答えてキッチンに引っ込み、お湯やドリップコーヒーの準備をする。ただそれだけのことが、今日はなんだか楽しい。
毎朝コーヒーを淹れるくらい理一にもしてあげていたけど、それはもはや義務的な作業になっていて。
感謝もされなければ、彼の気分によってはまるまる全部飲み残されることすらあった。
一緒に暮らしている最中はそんなに深く考えなかったけれど、実はそういうささいな出来事によって、日に日に小さな傷が降り積もっていたんじゃないかな。
でも、もとはと言えば、私が理一にそういう不満をうまく伝えられなかったのが悪いんだよね。
本当は伝えなくてもわかって欲しかったけど、それが無理なら自分から伝えなきゃいけなかったのに……。
忘れようとしても無意識に頭の中をぐるぐるまわる、理一との同棲生活。
目の前のガラスのサーバーに少しずつ落ちるコーヒーの雫にその苦い記憶を映して、私はため息をこぼした。