溺愛ペット契約~御曹司の甘いしつけ~
「おい、稀華」
そのとき、甲斐がキッチンを覗いて私を呼んだ。
「あ、ごめんなさい、コーヒーはもうちょっと時間……」
「別に催促に来たわけじゃねえよ。これ、お前が好きそうだと思って」
大きな手が差し出したのは、バケットを短くしたような形の、シンプルなパン。クリームやフルーツもトッピングされていないし、これといった特色は感じられない。
「……これ、何パン?」
不思議そうにパンを観察する私に、甲斐は得意げにふふんと鼻を鳴らして答える。
「なんとお前の好きな物の二大コラボだ。その名も米パン」
「あ、米粉を使ったパンってこと? もちっとして美味しいよね」
米粉パンなら、庶民な私でも知っているし、食べたこともある。
「……なんだ。知ってるのか」
少々がっかりした様子で呟いた甲斐。
あれ? もしかして私が食べたことないと思って、わざわざ持ってきてくれたのかな。だとしたら、期待を裏切るような反応しちゃった。
「で、でも! かなり好きだよそれ。せっかくだから今もらおうかな!」
慌てて取り繕い、ちょうだい、と手を出す。
すると甲斐は私の手を避けるようにパンを高く持ち上げてしまう。
な、なんでそんな意地悪を……?