溺愛ペット契約~御曹司の甘いしつけ~
「お前さ」
呆れたような瞳で見下ろされ、私は肩をすくめた。食い意地が張っているとでも嫌味を言われるのかと身構えていると、降ってきたのは予想外の言葉。
「人の顔色、うかがい過ぎ」
「え……?」
「ま、生きて行くために必要なスキルであることには間違いないけど……いつも他人を喜ばせようとばかりしてると、疲れるぞ」
私は甲斐の言葉の意味を必死に理解しようと、目を瞬かせる。
でも、自分ではそんな風にいつも“ひとを喜ばせよう!”って意識しているつもりはない。
そりゃ、悲しませたり怒らせたりはしたくないとは思うけど……それって当然の感情じゃないの?
腑に落ちない私に、甲斐が諭すような口調で告げる。
「もちろんそれ自体は悪いことじゃねえ。だけど、自分を殺し過ぎているといつか爆発する日が来る。……だから、親しい相手にくらい、本音を言えよ」
「本、音……」
それは理一との生活の中で、私が飲み込み続けてきたものだ
自分が我慢すれば丸く収まることが、日常で。……甲斐の言う通り、それが爆発してしまったから、今私はここにいるんだ。
「つまり」
何とも言えずに立ち尽くす私に変わって、甲斐が話を続けながら、抽出の終わったコーヒーを二つのカップに注ぐ。
それが終わり、サーバーをシンクの中に置いた甲斐が、私を見つめて言った。
「俺の前では、わがままでいろってこと」