溺愛ペット契約~御曹司の甘いしつけ~
「……やっぱり、このワンピースやめる」
卑屈になって口をとがらせると、甲斐が不思議そうな顔をする。
「なんで」
「だって似合ってないもん。服は素敵でも、着る人が私じゃこんな残念な感じだし。これじゃ、明神さんにも申し訳ない」
彼だって、こんな地味なやつに着せるためにデザインしたんじゃないよね……。
そんな思いで肩を落とす私の背後で、甲斐は顎に手を当てて、なぜか鏡の中の私を凝視している。
「……いや。そうじゃないだろ」
「え?」
「お前に自分を化かす能力がないだけだ。それなら、プロに頼めばいい」
じ、自分を化かすって何……? 私は確かにペットだけど、タヌキやキツネではない。
意味が分からず怪訝な眼差しで甲斐を見つめると、彼は急にスマホを取り出してどこかに電話をかけ始めた。
短いあいさつの後、「今から一匹女連れてくから」とだけ伝え、すぐに通話は終わった。
一匹っていうのは……どう考えても、私のことだよね。
「あの、今どこに電話を?」
「俺の行きつけのヘアサロン。そこで存分に化けてこい」
「行きつけ……?」
「そうと決まればすぐ出るぞ」
いやいやいやいや、勝手に決めないで!
長い脚でスタスタと部屋を出て玄関に向かう甲斐の背中に、必死で追いすがる。