溺愛ペット契約~御曹司の甘いしつけ~
「あなたの通うヘアサロンなんて、きっと私の払える料金じゃないし!」
「ああ? ペットの手入れは飼い主の仕事だろ。お前に払わせる気なんか毛頭ない」
「いや、食べ物と寝床を与えてもらうだけで私は充分だからっ」
「……うるせーな」
苛立ちの滲んだ声でこぼし、廊下の真ん中で立ち止まった甲斐が、くるりとこちらを振り返る。そしてこちらに手を伸ばし、ぱさついた私の髪の毛先に触れる。
不覚にもどきりと胸が跳ね、体中を緊張で固まらせる私に、彼は諭すように言った。
「俺が見たいんだよ。素のままでも可愛いお前が、さらに綺麗になるところを」
なっ……。なっ……。なんなのその殺し文句は……。
じわじわと頬に熱が集中してくるのを感じて、私はうつむいた。
“可愛い”も、“綺麗”も、言われたの何年振りだろう……。あくまでペットとしてという意味なのに、うれしいって思ってしまう私って、どんだけ愛情に飢えてたんだろう。
結局甲斐に丸め込まれた私は、彼の高級車に乗せられてヘアサロンにむかうはめに。
マンションを後にして向かった先は、青山。
青森と一字違いのくせに、その街並みは都会的なセンスが光る、お洒落な世界。
適当なパーキングに車を止めて少し歩くと、街路樹の並んだ明るい通り沿いに、目的のお店はあった。