溺愛ペット契約~御曹司の甘いしつけ~
呆れ顔でそうこぼし、何事もなかったかのように青信号で再び運転を再開する甲斐に、拍子抜けもいいところだ。
ペットは、人間の女性じゃなかったのか……。早とちりしちゃった。
急に体の力が抜けてシートに深くもたれる私に、甲斐がからかうような口調で言う。
「嫉妬したのか? 前のペットに。犬とはいえメスだったしな」
「そんなわけないでしょ! ただ、ちょっと気になっただけ!」
「気になっただけ、ねえ……」
本当は嫉妬したくせに、とでもいいたげな反応に、私は不貞腐れて窓の方を向く。
そりゃあ、人間でないとわかってホッとした部分もあるけど……って、なんでホッとしてるの? 別に甲斐が過去に何をしていようと、関係ないのに。
そんなことを思いながら眺めた景色は、段々とビルが低くなり、緑も増えて東京らしさが薄れてきた。
先ほどの怒りが徐々に収まってきた私は、甲斐に改めてペットの件を尋ねてみる。
「そういえば、そのワンちゃん、今はどうしてるの? あの部屋にはいないみたいだけど」
そのとき、私の勘違いかもしれないけれど、一瞬甲斐の横顔が強張った気がした。
……もしかして、亡くなってしまったのだろうか。だとしたら、悪いこと聞いちゃったかも……。