溺愛ペット契約~御曹司の甘いしつけ~
「馴れ馴れしく名前で呼ばないでください!」
「お前も俺のことは蓮人(れんと)でいい」
ふうん、甲斐蓮人っていう名前なのね。
御曹司なんて生き物にはいっさい縁がないから聞いたこともない名前だけど。……って。
「そういうことじゃありません!」
くわっと目を剥いて敵意をむき出しにするも、甲斐蓮人は私を無理やりタクシーに押し込めて、自分もその隣に滑り込んだ。
「浜松町の“インペリアルタワー”まで」
どうやらマンション名らしい行先を運転手に告げ車が走り出すと、甲斐はすらっと長い脚を組んでじっと私を見据えてくる。
うわー……女である私よりくっきりぱっちりな二重だし彫りは深いし、非の打ち所のないイケメンぶりがまたむかつく。
私はあからさまにげんなりした顔を作るけれど、甲斐は口元に微笑を浮かべている。
といっても優しげな雰囲気なんかまったくなく、小悪魔……いやむしろ悪魔的な黒い笑みだ。
「……人の嫌がってる顔見て楽しいですか」
「ああ、楽しい。これがそのうち喜んで尻尾振るようになるのかと思うと可愛くてな」
「誰があなたに尻尾なんか!」
フン、と窓の方を向いて不快感をあらわにしたその時、私のバッグの中から着信音が鳴っているのが聞こえた。
隣にいる甲斐の視線を気にしつつスマホを取り出すと、表示されていた名前は【成瀬理一】。
プロのミュージシャンになるために青森から上京し、それから現在までずっと同棲している私の彼氏そのひとだった。